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『悪霊』(地点 CHITEN) レビュー
 

2014年3月
文・高松徳雄


私は実はほとんど演劇というものを鑑賞したことがありませんでした。少し敬遠していた、と表現したほうがいいかもしれません。私は映画が大好きで、演劇はなんというか、演技が大げさというか、わざとらしいというか、どうも私には合わないように思っていました。
しかし昨年、東京乾電池の『夏の夜の夢』を観て、考えが一変しました。




演劇ってすごい・・・!
下北沢にはたくさん演劇の劇場があって、活動している劇団もたくさん。たまたま私の家の近くに、柄本明さん率いる東京乾電池の劇場があって、こんな に近くにあるのに行かないのはもったいない(ご近所割引の券なども頂いたりして)、シェイクスピアの『夏の夜の夢』という、比較的分かりやすそうな題目 だったので、観に行ったのでした。
演劇には無限の可能性がある・・・!そう思わされた体験でした。



さて、地点の『悪霊』。
鑑賞したその日の夜、夢にも出てくるほど、圧倒されました・・・ぐるぐる走り回っている人たちが・・・




ドストエフスキーの『悪霊』は、私の一番好きな作品なので、内容はしっかり把握しているし、もちろんとても思い入れがあるので、それが演劇で表現されるとなれば、期待しつつも、「大丈夫かな〜?」と不安に思ったりもしていました。
その心配は杞憂に終わりました。
演劇というものは、その作品や題目となる物語を細部にまで完全に理解し、そして編集しなおして、新たな表現方法で再現すること、そのように思えました。



演劇はとても原初的な人間の表現方法で、そのためすべてが象徴的。
考えてみれば当たり前ですが、演劇では小説の時系列通りに物語を進めることはできません。『悪霊』は長編小説だし、登場人物もたくさん、シーンもたくさん。回想シーンとか挿話もたくさん、さてどうなるか?
開演時間になり、アナウンスの「間もなく開演です」という声が聞こえている時に、既に登場人物の一人が舞台の外縁部をぐるぐる小走りしていました。 なるほど!これは語り部Gなんだな〜とわかりました。Gは走りながらキーワードとなる言葉をつぎつぎ叫びつつ、そしてその語り手とは別に、舞台中央ではム クムクと主要登場人物が出現して、対話しつつ、取っ組み合い!
取っ組み合い、これにはすごくすごく意味がある!と私には思えました。台詞を言っている人物とは別に、なぜか舞台のいろいろなところで取っ組み合いが始まっていました。
ドストエフスキーの小説の登場人物は、皆が皆、“激情型”で、すぐ怒ったり泣いたり、叫んだり急にしょぼんとしたり、とにかくジェットコースターに乗って いるような騒ぎになることが多々あります。いろいろな場面場面でいわゆるカーニバルが繰り広げられます。特にこの『悪霊』では、「革命!」などと騒いで、 喧嘩のような議論が方々で繰り広げられます。
語り部のG、ステパン氏、ワルワーラ夫人は、舞台の外縁を小走りしつつ物語を進めて、ピョートル、スタヴローギン、キリーロフ、シャートフは中央で 取っ組み合いしつつ、時には外縁で走って物語を進めます。同時に二人三人の人物が語りだすという多声的な演出もドストエフスキー作品ならでは。
こういったことは全て、徹底的にドストエフスキーの作品、そしてこの『悪霊』という作品を理解していないと決してできない表現方法だと思いました。
(演出家の方の意図はわかりませんが、私は勝手にそう解釈しました)
『悪霊』に関しては、私は一番好きな作品なので、ストーリーは分かっていて、好きなシーンの台詞なども覚えちゃっているところもあります。今回の舞台でもいくつか私の好きな台詞が登場して、ちょっと感動のあまり泣きそうになりました。
少し前のブログ(ドストエフスキー vol.4 彷徨う続ける『悪霊』)でも引用した、スタヴローギンとキリーロフの対話シーンも登場!
演劇を見慣れていない私にとって、全てが新鮮でした!演劇には無限の可能性がある!

古代ギリシアで哲学が生まれ、同時に演劇も盛んだったというのは、決して偶然ではないように思えました。演劇にはともすれば哲学や文字以上に形而上学を表 現することができるし、演出の出来不出来によっては、およそこの世界で起こるすべての事象をすら表現することができる、私はこの『悪霊』を観て、そんなこ とすら思ってしまったのでした。
それにしても!演劇って、こんなにも体力使うものなのですね。これを毎日演じるとは、すごすぎる。かっこ良すぎる。




▲神奈川芸術劇場。とても大きな建物でした。ぐるぐる回るようにエスカレーターで上へ上へと進みます。



▲神奈川芸術劇場に掲げられた巨大な看板。反対側の歩道から撮りました。これはインパクトがありました。
CHITEN × KAATの『悪霊』は、3月14日(金)から23日(日)まで。
ホームページはこちらです。http://www.chiten-kaat.net/
ドストエフスキー繋がりで、映画『ドストエフスキーと愛に生きる』も アップリンクで絶賛上映中。公開は2月22日ですが、かなり好評とのこと。ほんとに、とてもいい映画ですので、ぜひご覧いただければと思います。この映画 のオフィシャルガイドブックに、ほんの少し私の文章が載っています。おすすめのドストエフスキー作品は?というコーナーで、私はもちろん『悪霊』を挙げて います。



CHITEN × KAATの『悪霊』、私にとってはとても貴重な体験になりました。ドストエフスキー作品を何か一つでも読んでいれば、そしてできれば『悪霊』を読んでいれば、この舞台で新しいドストエフスキーを見出せるはずです。



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