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東京都世田谷区下北沢の古本屋「クラリスブックス」

『拡張するファッション』(著/林央子) レビュー 02
はじまりは1995年


2014年1月
文・石鍋健太

はじまりは1995年。

下北沢 古本屋 クラリスブックス 拡張するファッション

まずなにより、序文に登場するこのフレーズにしびれた。1995年から2000年代前半にいわゆる思春期を送った自分を思い返すに、彼にとってファッションとは、クリエイティブなものと結びつくような何かではなく、単に流行であり消費だった。いまでこそ、「身体的に自分に近いもの、世界とつながっているもの、自分を表すもの」として衣服を思考することは私にとって重要なことだけれど、当時はファッションについて語ることや一生懸命になることになぜかすごく抵抗があり、そんなことに振り回されたくないと頑なに思っていたようなフシがある。そのせいか、この本に登場する人々や事々について、断片的に観たり、聴いたり、読んだり、知ったりすることはあっても、それを大きな流れやうねりとして体感することができなかったのだ。

あの頃の少年がすっかり見逃していたもの、気づけなかった始まり。彼が愚かにも世界のすべてと思い込んだものの裏側にあった場所、確かに登ったはずの山の、選ばなかった道で巻き起こっていたうねり、爆発していたエネルギー。あの頃には手繰り寄せようともしなかった、いくつもの繋がりの糸。そういったものを、私は『拡張するファッション』のなかに読んだ。自分から遠く離れたところのものをぐっと身近に引き寄せて取り込んでいく快感。“読書”という行為の、たぶんもっともエキサイティングな一面。本を読むことはどこまでも自由なのだと、あらためて思った。

下北沢 古本屋 クラリスブックス 拡張するファッション

以上のような個人的感慨を抜きにしても、『拡張するファッション』について語りたいことはたくさんある。この本の魅力は、クリエイティブファッションを軸とした著者個人の考察と報告の記録が、同時代のカルチャーマップとしても成立しているというところにあると思う。「1995−2011、クリエイティブファッションのドキュメント」。帯にそう記されたこの本の主な構成要素は、95年から00年代前半にかけて雑誌媒体で発表されたインタビューやレポート記事の数々である。それらの断片は、「こういう時代でした」という説明を援用するために駆り出されるのではなく、一つひとつが、そのままある時代のプロフィールとして結晶している。主役はあくまでも、パーソナルな思いが発端となったいくつものクリエーションとその発信者たちであって、著者はそれらの間を緩やかに、丁寧に紡ぎ合わせるようにしてこの本を編んだのではないだろうか。そんなふうに著者の手つきを想像した。実際の出会いや体験を語るためだけに駆使される言葉が、とても心地よかった。

現代的なクリエーションの出発点としての「ガーリームーブメント」、その自発性の輝きと美意識の革命。インディペンデント雑誌「Purple」によ る越境。ファッションという概念の拡張と転換を試み続けるBLESS、COSMIC WONDER、そしてパスカル・ガテンの声。スーザン・チャンチオロの絶えざる自己刷新。エレン・フライス曰く、「小さいままでいて、なにか完全にパーソ ナルなことを提案すること」。その他いろいろ。

彼らに寄り添い続け、彼らを見つめ続け、その声を聴き続けてきた著者が、その魅力を“書く”ことによって伝えようとしている姿勢に、言葉に、私はなにより惹きつけられたのだ。

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