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東京都世田谷区下北沢の古本屋「クラリスブックス」
『拡張するファッション』（著／林央子） レビュー 01
つい、たくさんの言葉を連ねたくなってしまう表紙
2014年1月
文・石鍋健太
クリーム色と、紫と白と黒の組み合わせがまず目につき、手に取って見つめたくなるようなかたちと、大きさと、色の本だったので、立ち止まってそうしたのがこの本との出逢いだった。
表紙のクリーム色の部分は、ところどころに小さな傷のついた板壁のようなもので、それを背景に、紫と黒で不規則な格子に染め抜かれた白地の、とても薄い生地の、半袖のワンピースらしき服をまとった人が、立っている、たぶん。曖昧な言い回しは、その写真が表紙で確認できるかぎりではモデルの全身を捉えているわけではなく、腰と首が始まるあたりでカットされてしまっているうえ、写真自体がおそらく本来の向きを横倒しにした格好になっているからで、俯き加減のこのモデルがこれを見ただけでは女性であることすら断定はできないのだが、細身の体にフィットしながらも、つかず離れずの適切な距離感を保とうとでもするかのように、すこし浮いているように見える生地が涼しげで、胸元の小さな白い花がかわいくて、垂れ下がる黒髪にも軽やかな動きがあって、一見したところよくわからないながらもとても好感の持てる表紙。なんだろう、と思ったところでようやく、写真の上に白く抜かれた矩形のなかのタイトルと著者名を確認した――「拡張するファッション」「林央子」。
なんだろう、となおも思ったまま本を裏返すと、裏表紙は期待どおり表紙のカバー写真の続き。つまりモデルの腰より下の部分が写っている。服はやはりワンピースで、表紙よりも紫の占める割合が劇的に多く、モデルの右手薬指にはシンプルな指輪がある。ピンクに近い薄紫の帯に「ミランダ・ジュライ」の名前があったので気になりつつもそれはひとまず置いておいて、思わず本からカバーを外し、向きを90度回転させて（「勝訴！」の和紙を掲げる人のように）両手で上下を掴んでその縦長の写真をとくと眺めた。とても素敵な写真だと思った。
丁寧にカバーを元に戻し、今度は帯を見る。表紙側には、いくつもの人名やキーワードが列挙されており、その先頭にやはり「ミランダ・ジュライ」がいる。
正直、彼女の名前以外のほとんどの人名とキーワードは、これまでに聞いたり読んだり観たり関わったりしたことはあっても、強く心惹かれたり、自分との分かちがたい結びつきを感じたりしたことのないものだったし、著者の林央子さんのことも、恥ずかしながらこの時はよく知らなかった。
それでも、ともかくもその姿に惹かれるまま、そしてなんとなくの好感を頼りに、私は『拡張するファッション』という本を開いたのだった。このすばらしい装丁が、カバー写真／ホンマタカシ、デザイン／服部一成、衣装／スーザン・チャンチオロという豪華メンバーによるものだと知ることになったのは、だいぶ後になってからのことだ。
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